
夏の親しげな空がだんだんと高くなって行き、砂糖水を刷毛でなでたような薄い雲が入道雲のかわりに増えてきたら、秋がそろそろやってくる。
ある旅の出来事から、日頃の食生活を野菜中心のオーガニックライフに切り替えた記念の旅もこの季節だった。
その年の初秋、私はアメリカ東海岸で遅い夏休みを送っていた。街へと向かう道では両側にブドウ畑やラズベリー畑が広がっていた。ラズベリーピックという大きな看板が出ていて、誰でもラズベリー摘みを楽しめるようになっている。その年ラズベリーは豊作で、あっという間に籠一杯になってしまうので、私たちはブラックベリーだけを摘むというルールを作った。それにブラックベリーの方がずっと美味しいから、という理由でもあった。赤いラズベリーの影に所々ブラックベリーは潜んでいた。同じ木から赤い実と黒い実が成るのかはわからなかったけれど、何故だかブラックベリーは圧倒的に数が少なかった。すぐに見つからない分、夢中で探して歩いた。
山のように摘んだブラックベリーは、滞在期間中ずっと食卓を飾る事になった。
摘みたてのブラックベリーは冷やさないで常温で置いておくのがコツで、そうすると自然の甘さが小さなつぶつぶの食感を通して広がってくる。真っ白なアイスクリームのトッピングに使ったり、白身魚を薄くスライスしたカルパッチョに添えてみたり、パンケーキにちらしたり。
その街はオーガニックで野菜を育てている農家も増えていて、地元のレストランでは遠くから食材を取り寄せたりせずに、そういった農家と提携してその土地の野菜を使った料理を出していた。おしゃれなオーガニックのカフェも出来ていて、洗練されたカントリーサイドという雰囲気のその街は、都会からの移住者が増えていた。
オーガニックな食材は、うわべのスタイルだけでなく生活そのものになって初めて生かされるのだという事に改めて気がつかせてもらった旅だった。
オーガニック・ファームを運営しているチャーミングな女性は、旦那様の病気がきっかけで無農薬野菜の食事に切り替え、自身も農園を営む事になったという。彼女はいつも白のコットンタートルネックに、白のオーバーオールという真っ白な格好をしている。
ワゴンに並べる泥のついた紫色のビーツやにんじんが、彼女にとってのアクセントカラーになっていた。彼女の作るビーツはとびきり上等で、葉っぱの先までルビーのような赤さがきらきらと輝いて、ただゆでて山羊のチーズと一緒に口に放り込むと、土地のもつ端正な甘味がしっかりと感じられて、落ち葉を踏みしめているような独特の香りにつつまれる。日本から来たことを告げると「随分遠いところから訪ねてきてくれて…。」と、記念にくれたオーガニックについて書かれた本にも泥がついていて、とても美しいものを頂いたという気持ちになった。
この旅を境に、食生活は野菜中心にかわり、どのように盛りつけや素材を楽しむか、というライフスタイルに変わった。泥のついた本はそのまま大切に、いつでも見えるところに飾ってある。
By デザイナー 谷合緋沙子さん
コラム「東京のお家、モロカイのお家」
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